日税FPメルマガ通信 第408号

 

Ⅰ. 4月26日に円相場が、約34年ぶりに1ドル=158円台前半に

4月26日のニューヨーク外国為替市場では、円相場が1ドル=158円台前半に急落し、1990年(平成2年)5月以来の約34年ぶりの安値水準を付けた。
その背景は、日銀が政策金利の据え置きを決めたことで、円売り・ドル買いの流れが一段と加速した。植田日銀総裁は4月26日の金融政策決定会合の後の記者会見で、円安について「基調的な物価上昇率に今のところ大きな影響を与えていない」と述べた。市場では利上げが遠のいたとの見方が広がり、円安が一段と進行した。

さらに、この日に発表された2024年3月の米国の個人消費支出(PCE)物価指数がインフレの根強さを示唆する内容(米国の物価指標で前年同月比の上昇率が2.7%と、2月の2.5%とインフレの加速が確認され、米国の長期金利には上昇圧力がかかり、日米金利差の拡大が意識され、円が急落)だったことから、連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ観測が後退した。日米金利差を意識した円売り・ドル買いが進んだ。


FRBの利下げが遠のくとの見方から、長期金利の指標となる米国の10年物国債利回りは4.6%台後半(日本は0.8%台)と年明け以降、上昇傾向が続く。

植田日銀総裁は、最近の円安進行について基調的な物価動向に大きな影響が生じれば「政策の判断材料になる」と語った。物価への影響を見極める姿勢も示したが、外国為替市場では早期利上げにつながるような発言がなかったとの見方から一時、円売り圧力が強まった。

日銀は政策金利を0~0.1%程度(無担保コール翌日物レート)に据え置き、追加利上げを見送った。

また、「経済・物価情勢の展望」では、消費者物価指数(CPI)の前年度比上昇率は、変動の大きい生鮮食品を除いて2024年度は2.4%から2.8%、2025年度も1.8%から1.9%に引き上げた。初めて示した2026年度は1.9%と見通した。


最近の円安について「基調的な物価上昇率への大きな影響はないと判断した」と話した。影響は無視できる範囲だったかと問われ「はい」と答えた。そのうえで、今回利上げを見送った理由を「基調的な物価上昇率は2%を下回っている。3月から4月にかけてはっきり物価が高まったとは考えていない」と説明した。

財務省が2022年に為替介入に踏み込んだ当時(政府・日銀はドル円が1ドル145円を超えた2022年9月22日に24年ぶりとなる円買い為替介入に踏み切った。150円を超えた2022年10月下旬にも2度介入が介入は合計3回で総額9.2兆円規模)と状況が近似する。2年ぶりの介入が視野に入る。



Ⅱ. ドイツのGDP(国内総生産)が日本を抜き、日本は世界第4位

ドイツのGDP(国内総生産)が、日本を抜き日本は世界第4位(1位:米国、2位:中国)に後退した。この背景には、日本円の実力値が下がったことや少子高齢化による労働力人口の大幅な減少がある。

日本の内閣府とドイツの連邦統計庁が発表した自国通貨建ての名目GDPを、内閣府が年間の平均の為替レートを用いてドル換算した。日本の2023年の名目GDPは591兆4820億円だった。
日本は1968年に国民総生産(GNP)で西ドイツ(当時)を抜いている。ドイツの経済規模を下回るのはおよそ半世紀ぶりとなる。日本は名目GDPで2010年に中国(年10%の成長をしていた中国)に抜かれ、世界2位から3位に転落していた。

日本の名目GDPは円安を背景にドル建てで目減りした。ドイツは物価高が押し上げている。

なお、ドイツ経済は物価高がロシアのウクライナ侵攻以降長く続き、欧州中央銀行(ECB)の利上げもあって、2023年は実質でマイナス成長と足元では振るわない。

一方で、自国通貨建てで長期の推移をみると、日本の伸びはドイツと比べて低く、日本経済の生産性の低さを映しているといえる。ドイツでは2000年代以降の労働市場改革が生産性を向上させ、ドイツ企業の競争力を高めている。

2023年の名目GDP(国内総生産)が4.4兆ドルとなり、日本のGDPが世界4位に転落することが濃厚になった。ドイツ経済は低迷しているが、外国為替が円安になり日本のGDPがドル建てで目減りする。

2000年にはドイツの2.5倍あった日本のGDPが逆転されるのは、金融緩和下で生産性の向上が滞ったことを映す。

2023年の名目GDPは、前年比6.3%増の4兆1211億ユーロだった。2023年の為替の平均レートではおよそ4兆4500億ドルとなる。日本が2023年通年のドル建てでドイツに並ぶには、2024年2月に公表した2023年10〜12月期が約190兆円に達する必要がある。

今回の日独の逆転は、ともに低成長に陥るなかで起きた。ドイツはウクライナ危機に伴う高インフレ(ドイツは2022年10月には、ウクライナ戦争によるエネルギー価格の急騰のため前年比で12.8%、2024年3月は2.3%の上昇に鈍化)と欧州中央銀行(ECB)による急激な利上げで2023年は実質0.1%のマイナス成長だ。ドイツ経済諮問委員会によると経済の実力を示す潜在成長率で2022年は0.4%で、0.5%だった日本を下回る。

物価高と2022年比での対ドルのユーロ高がドイツのGDPを押し上げたと分析する。ユーロの相場と日独の名目GDPに占める物価要因が一定だと仮定すると、1ドル=132円なら日独は同水準だったとみる。

日独の逆転を招いた円安は、日本経済が成長力の底上げを怠ってきたためでもある。この20年あまり金融緩和や財政出動による需要喚起に走り、産業構造の新陳代謝などは遅れてきた。その間、欧米の主要国は生産性を高めた。

世界銀行の2022年のデータをもとにすると、15〜64歳の生産年齢人口1人当たりの実質GDPは日本が6万1600ドルほどで、ドイツより1割少ない。再逆転するには、生産性を高める地道な努力が必要である。

日本は長時間労働に結果が伴っていない。経済協力開発機構(OECD)によると1人当たり年間労働時間は、2022年に1607時間とドイツ(残業規制あり)より2割多い。

産業用ロボットの稼働台数の多さなど、充実したインフラを生かしきれていない。

日独とも高齢化が進み、労働力の不足による経済の下押し圧力は強い。再浮上のためには、同一労働・同一賃金の徹底などによるシニアの働き手の掘り起こしも欠かせない。半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)の九州進出のような、外資の一段の呼び込みも成長を左右する。

ドイツの2023年の名目のGDPはプラス6.3%である。一方、物価の変動を除いた実質GDPはマイナス0.3%で、日本の実質GDPがプラス1.9%であったことと比べると、「日本はドイツに負けていない」というのももっともな指摘である。
ドイツ経済は、足元では不振が続いている。ロシア産の安い天然ガスがウクライナ侵攻後は調達が難しくなり、エネルギーコストの上昇や高齢化による人手不足などで長期低迷に入ったともいわれている。

下記の表は、スイスのビジネススクールIMDが発表した2023年の世界の競争力ランキング(日本は35位、ドイツは22位、米国は9位、中国は21位、台湾は6位)である。経済状況やビジネス、効率性などをもとに順位が決められている。



また、労働生産性にも大きな差がある。労働生産性とは、労働者1人当たり、あるいは労働1時間当たりでどれだけの成果を生み出したかを示す指標である。

「日本生産性本部」によると、2022年のドイツの労働生産性は1時間あたりで87.2ドルである。G7=主要7か国の中ではアメリカに次ぐ2位につけている。一方、日本は1時間あたり52.3ドルで、G7では最下位が続いている。


また、男女間の賃金格差も日本は大きな開きがあり、問題となっている。

内閣府が2022年に発表した資料によると、男女の賃金格差は日本は22.5%と、G7で最も大きい状態である。男性に比べて女性の賃金が低いことを意味している。ドイツは13.9%と、イタリアやフランスよりは大きいものの、G7でちょうど真ん中ぐらいとなっている。


Ⅲ. 天然ガスに供給リスク。3カ月半ぶり高値中東情勢悪化で

天然ガス価格が上昇している。イランとイスラエルの対立が激化すれば、液化天然ガス(LNG)輸出の主要航路のホルムズ海峡を通じた供給が途絶えるとのリスクシナリオが意識される。

英LSEGが算出する、欧州の天然ガス指標の「オランダTTF」の翌月渡し物価格は、4月17日、一時1メガワット時あたり33ユーロ台後半を付けた。終値ベースで2024年1月以来、約3カ月半ぶりの高値となった。


イランは世界のLNG輸送の約2割を占めるホルムズ海峡に面し、報復として通航を妨げる懸念が出ている。同海峡は埋蔵量が世界第3位のカタールのあるペルシャ湾の出口で、13日には近辺でイスラエル関連の貨物船の拿捕(だほ)が伝わった。

業界団体GIEによると、欧州全体の天然ガス貯蔵率は、2024年4月15日時点で6割強と、2023年の同時期の6割弱を上回り、暖房で消費が増える冬も超えた。ただし、ロシアのウクライナ侵略後の2022年8月には1メガワット時あたり340ユーロ強まで上昇した経緯から、投資家はリスクシナリオに敏感な面がある。

価格上昇が続けば、世界のインフレ懸念を再燃させ、中央銀行の利下げ開始の先送りといった波乱要因になりかねない。

欧州の原油指標の北海ブレントは、1バレル90ドル付近で高止まりを続ける。欧州中央銀行(ECB)は2024年の原油価格を約80ドルと想定する。そのため、市場がメインシナリオとして受け止めた2024年6月利下げ開始が揺らぐ可能性もある。

Ⅵ. チャート(日米の株価と為替)2024年4月26日時点
出所:ブルームバーグ社


1.米国・NYダウ(ダウ・ジョーンズ工業)
  (5年間)年初来の騰落率 0.2%上昇



2.アメリカドル(5年間)



3.日経平均株価(5年間)
  年初来の騰落率10.8%上昇


以上




<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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