日税FPメルマガ通信 第412号

Ⅰ. 現状のマーケット

1.日米の金融政策

日米の金融政策決定会合:日米ともにサプライズ含みも、市場の反応は冷静沈着 株式市場は、各国・地域ごとにまちまちとなりました。6月の米連邦公開市場員会(FOMC)は参加者の年内の予想利下げ回数(中央値)を、前回3月の3回から1回に大きく減らし、タカ派なスタンスを見せました。

パウエルFRB議長の記者会見では、ハト派なスタンスも見え隠れするなど、FRBは市場との対話を慎重に行っている様子です。
結果として、米国の金融市場では、9月の利下げ開始を予想する向きも多いです。
加えて、米物価指標が鈍化の兆候を示したことなどを好感し、米国株は堅調に上昇・米10年国債利回りは週間で低下しています。

なお、6月14日の日銀金融政策決定会合では、市場の予想に反して国債買入の減額幅を示さずハト派な印象を与えたことで、一時円は対米ドルで159円台に急落しました。

2.日米の景気

国内景気については、2024年の後半の回復を想定しているものの、足元は消費を中心に冴えない状態が続いており、サプライズにはなりづらいと思われます。
一方で、米国では景気の減速感が意識されており、長期金利の低下が続いています。

これを受け、日本株市場ではこれまで堅調だったバリュー(割安)株が失速し、代わりにグロース(成長)株が再評価される展開へと変化しています。

3.日銀の金融政策

日銀は次回会合で国債購入減額を決定

日銀は、6月の13日から14日の金融政策決定会合で、無担保コール翌日物金利を0~0.1%程度に誘導する政策金利の維持を全員一致で決定しました。

長期国債の買入れに関しては、3月の会合で決定した方針を継続しました。
3月の会合では、国債購入は「これまでとおおむね同程度の金額を継続」とし、注記で足元の購入額は「6兆円程度」としていました。
今後については、「金融市場において長期金利がより自由な形で形成されるよう、長期国債買入れを減額していく方針」と決定しました。

次回の会合にて、今後1-2年程度の具体的な国債購入減額計画を決定する予定です。
会合結果を受け、為替市場では一時、円が対米ドルで1ドル=158円台まで下落し、円安が一段と進みました。
今回の会合で、日銀が7月に具体的な国債購入額削減決定を先送りしたため、今後もしばらく円安にふれやすい展開が続くとみています。


Ⅱ. 海外の重要な動き

1.米国の大統領選挙(11月5日)

2024年下期の金融市場を見通す上で最大の焦点となるのが米大統領選(11月5日)です。
バイデン氏とトランプ氏の対決の行方は「かつてなく予測が難しい」との声は多いです。



2.欧州の政治事情

6月9日に実施された欧州議会選挙では、「欧州人民党(EPP、中道右派)」及び「欧州社会民主進歩同盟(S&D、中道左派)」を中心するとする親EU派が、過半数を確保も、極右政党やナショナリスト政党が躍進しました。
イタリアでは、メローニ首相が率いる極右政党「イタリアの同胞」が勝利したのとは対照的に、ドイツやフランスの与党連合は敗北しました。

極右政党「国民連合(RN)」の大勝を受け、マクロン仏大統領が解散総選挙を電撃発表したことから仏10年国債利回りは大きく上昇(逆に、債券価格は下落)しました。
欧州の政治不安への懸念は、株安・ユーロ安進展の一因にもなりました。

フランスの総選挙は、6月30日に第1回投票、7月7日に第2回投票が予定されていて、議会下院議員(定数577)を選出されます。

最新の世論調査によると、マクロン仏大統領の支持率は過去最低に沈み、極右政党RNの優勢は不変であります。
RNの政権獲得を巡る不確実性は未だ高く、より幅広い連立政権や宙づり議会となる可能性も残ります。

また、RNは政策優先課題を公表し、電気・ガス・燃料代の消費税減税や移民削減、農業部門の保護等の政策を提示も、大幅な財政赤字拡大につながるような政策には未だ言及されていません。
フランスの政治混迷を巡る不透明感は強く、選挙動向を注視する展開は続きそうです。

金融市場では、2024年6月末から投票が始まるフランス下院選を巡る動揺が深まっています。

フランスの株価指数は1週間で6%安と、2022年のロシアのウクライナ侵略当初以来の下げ幅を記録しました。極右政党が勝利する公算が大きく、フランスの成長鈍化や財政悪化への不安が根強いです。

6月14日の株式市場で仏株価指数は、前日比204.75(2.7%)安の7503.27に。

1週間の下落率は6.2%と、1週間で1割下がった2022年3月初旬以来です。

業種別や個別銘柄の値動きも極右リスクを織り込みます。景気循環が収益に大きく影響する銀行株が軒並み下落しました。金融大手のBNPパリバ社は、1週間で12%、ソシエテ・ジェネラル社は同15%下げました。

きっかけは、6月9日のマクロン大統領の下院議会の解散と総選挙の宣言でありました。欧州議会選でのRNの勝利を受けて、改めて国民の信を問うこととしました。

マクロン氏が率いる与党連合の支持率は18%と3番手です。
フランスのマクロン氏は成長志向が強く、労働市場改革やスタートアップの育成、電気自動車(EV)向けの電池産業誘致などに取り組んできました。

一方で、反対勢力のRNは環境問題に後ろ向きで、EVは高額すぎて家計に負担だと批判しており、マクロン氏の成長政策を見直す可能性があります。

Ⅲ. 日本経済のトピックス

1.家計の「円売り」で早くも前年を超え 新NISAで海外投資増 1~5月5.6兆円

「家計の円売り」が加速しています。2024年の1~5月の国内の投資信託運用会社などによる海外投資は、5.6兆円超の買い越しとなり、2023年の通年の4.5兆円を早くも上回りました。新NISA(少額投資非課税制度)を通じた個人の海外投資の拡大が反映されました。

個人が外国株型の投信を買う場合、円を売ってドルを買うなどの取引が発生し、円相場の押し下げ要因になります。日米の金利差が縮んでも、実需の円売りはなお勢いが続くとの見方が多いです。

財務省の対外及び対内証券売買契約等の状況によりますと、国内の投資信託委託会社や資産運用会社による対外証券投資は、2024年5月に1兆3719億円の買い越しでした。単月の過去最大を更新しました。

2024年1~5月の累計では5兆6388億円の買い越し(金利の低い円を売り、金利が約5%超高いドルを買う)となり、2023年の4兆5454億円を上回りました。このペースが続きますと、2024年の通年では、約13兆円の買い越しになり、年間での最高も更新する見通しであります。

背景にあるのが、2024年1月に始まった新NISAであります。非課税の期間制限をなくして恒久化し、非課税枠も引き上げました。

5カ月間の累計の商品別の内訳を見ると、新NISAによる個人の海外投資を映す「株式・投資ファンド持ち分」が5兆1634億円の買い越しで全体の9割を占めます。

新NISAで最も買われている投信は、三菱UFJアセットマネジメントの全世界株式型投信「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)(オルカン)です。投資先の6割が米国株であります。2024年1~5月の資金流入額は、1兆1448億円と前年同期比で約5.7倍に膨らみました。

投資信託のオルカンの運用部隊は、新規のマネーが流入する度に、円を外貨に替えます。複数の銀行に円売り・外貨買い注文を出し、1日に1千億円を超えることもあります。

2.機械受注、4月2.9%減 3カ月ぶりマイナスに

内閣府が6月17日発表しました2024年4月の機械受注統計によりますと、設備投資の先行指標とされる民需(船舶・電力を除く、季節調整済み)は、前月比2.9%減の8863億円でした。マイナスは3カ月ぶりです。3月の製造業の一時的な受注増加の反動があったとみられます。

発注した業種ごとにみると「造船業」が79.7%も減りました。エンジンなど内燃機関や船舶などが押し下げました。

また、汎用コンピューターなどを発注する「電気機械」は、18.9%減でありました。

「自動車・同付属品」は、6.8%増でした。6月にはトヨタ自動車やマツダなどの型式指定を巡る認証不正問題が新たに発覚しました。内閣府の担当者は今後の影響について「今後注視する必要がある」と指摘されました。

3.日本車、中国で値下げ競争耐えきれず 日産は工場閉鎖、ホンダも人員削減

日産自動車が中国で工場を閉鎖し、同国の生産能力を1割減らすことを決定しました。ホンダも人員削減に踏み切っており、中国で日本車の合理化ドミノが広がってきました。

現地勢の低価格攻勢に押され、日本車の販売台数はピークだった2020年から2割落ち込む予想です。

現地勢は値下げを強化しており、劣勢の日本車各社はさらなる構造改革を迫られる恐れがあります。

6月21日に閉鎖した常州工場(中国江蘇省)は、日産が中国で抱える8工場のうち最も規模が小さいが、2020年11月に稼働した最新鋭の工場であります。

日本の自動車会社は、2000年以降、中国の現地会社と組み、現地生産を本格化させました。

日産は一時、中国では日本車大手3社の中で最も成功しているといわれました。

生産や販売網の構築に資源を集中投下し、この10年間の生産台数では2018年までトヨタ自動車とホンダを上回り、日本車ではトップでした。

当時、日産の新車販売は国別では中国が米国を上回り最大で、日産にとっては大黒柱の存在でした。

日本車が強かった中国で販売が低迷するのは、現地勢の値下げ攻勢が想定以上に激しいためです。
「中国市場での販売価格の下落は想定より2年早かった」と、2024年3月に、中期経営計画の発表会で、日産の内田社長は、中国市場の厳しい状況を公表しました。

日産の2023年の中国新車販売は、2022年比16%減の79万台と、5年連続で前年を下回りました。トヨタも2024年1〜5月が前年同期比10%減の63万台、ホンダも17%減の34万台と苦戦していました。

中国では電気自動車(EV)など新エネ車の普及が加速しています。新車販売台数(輸出含む)に占めるEVなど新エネ車の販売比率は5月に前年同月比9.4ポイント増の39.5%にまで上昇しました。

ホンダは中国市場で販売する新車を2035年に全てEVにする予定です。日産もEVの多目的スポーツ車(SUV)「アリア」を中国市場で投入するなど、2027年3月期までに販売台数を20万台増やす計画を掲げています。

現地勢は人工知能(AI)などを搭載した新車開発を進めており、価格以外でも先行している。日本車各社が計画通りに販売を回復できなければ、さらなる合理化を迫られることになります。

ホンダが中国の販売低迷を受けて、現地正社員の希望退職の募集を始めました。対象は工場の生産業務に携わる社員で、既に現地合弁会社の14%にあたる約1700人が希望退職に応募されました。

中国では電気自動車(EV)を中心に価格競争が激化しています。日本勢は苦戦しており、立て直しに向けてリストラに踏み込む動きまで広がってきました。

ホンダは中国で広汽ホンダなどを通じて四輪車を販売していますが、中国勢のEVなど新エネルギー車の価格攻勢で経営環境が悪化していました。

日本勢の自動車は、強みである品質や燃費だけでは売れなくなっています。2024年4月の新車販売は、ホンダが前年同月比22.2%減、トヨタ自動車が27.3%減、日産自動車が10.4%減と大手3社全てが前年同月を下回りました。

中国国内で低迷する日本勢に対して、中国勢のシェアは急伸しています。中国汽車工業協会によると、2020年に23.1%あった日系ブランドのシェアは2024年1〜4月では12.2%まで落ち込んだ。一方、中国ブランドは38.4%から60.7%まで上昇しました。

日本の自動車メーカーは、2000年代に中国企業と合弁会社を設けて生産規模を増やしてきましたが、中国事業の見直しを迫られています。

なお、三菱自動車は、2023年に中国の自動車生産からの撤退を決めた。

日産は、今後中国の年間生産能力を3割減らす検討をしています。トヨタも2024年5月に開いた決算説明会で、中国での事業環境について「しのぐ年が数年続く」と述べました。

ホンダはリストラで収益を改善しながら、EVの車種を増やして反転攻勢を目指します。

Ⅵ. エヌビディア:株式の時価総額が世界一位に

1.エヌビディアの株式の時価総額が526兆円 GAFAと主役交代

2024年2~4月期の売上高は3.6倍の260億4400万ドル(約4兆800億円)、 純利益は7.3倍の148億8100万ドルに

米半導体エヌビディアの時価総額が6月18日、米マイクロソフトを抜いて世界首位となりました。生成AI(人工知能)の登場により、スマートフォンの革新を主導したアップルやグーグルなど「GAFA」と呼ばれる米巨大企業から、株式市場の盟主の座はAI時代の新たな基盤企業へと移っていく見通しです。

エヌビディアの株価は6月18日、前日終値と比べて3.5%上昇しました。時価総額は約3兆3350億ドル(約526兆円)となり、マイクロソフトを上回りました。生成AIに使う半導体の需要増で連日、上場来高値を更新し、6月5日にはアップルを抜いて一時2位に浮上していました。

エヌビディアの時価総額は、2023年5月に1兆ドル、2024年2月に2兆ドルを超えた。6月5日には3兆ドルの大台に乗せ、設立から31年で史上3社目となる「3兆ドルクラブ」入りを果たしていました。

驚異的なペースの企業価値の増大は、主力の半導体の急成長に伴っています。データセンターのサーバーに組み込んで使い、「Chat(チャット)GPT」など生成AIの学習や動作の「頭脳」となる半導体です。

エヌビディアはこの分野のトップ企業で、データセンター向けAI半導体では2023年は8割のシェアを握っています。

生成AIを使ったサービスを展開する企業の競争が激しくなるなか、AIの性能を左右する半導体の需要は高水準です。

エヌビディアは台湾出身のファン氏ら3人の創業者が米西部カリフォルニア州サンノゼのレストラン「デニーズ」で構想を練り、1993年に設立しました。

主力製品の画像処理半導体(GPU)は、当初は高精細な3Dゲームをなめらかに動かすために開発しました。

2010年代に複数のデータを処理できるGPUの特性がAIの性能を飛躍的に高めることが研究論文でわかると、GPUをAI半導体に応用し、これが急成長につながりました。いま生成AI業界をリードするオープンAIの設立時にも半導体を供給した経緯があります。

2.エヌビディア:工場を持たないメーカー「ファブレス」。日本ではキーエンスなど

生産は台湾積体電路製造(TSMC)に委託して設計に特化し、次々にAIを高速処理する半導体を開発しています。今後も、2025年に「ブラックウェルUltra(ウルトラ)」、2026年に「Rubin(ルービン)」と呼ぶ次世代半導体を投入するなど、新たな開発計画が目白押しです。

エヌビディアにとって、今後の懸念材料は各国の政府当局による規制リスクだ。急成長は新たな独占への警戒を生み出しています。


以上




<著者プロフィール>
乾 晴彦 氏
CFP、1級FP技能士、DCアドバイザー、宅建取引士(旧:宅建主任者)、証券外務員一種資格、終活カウンセラー、PB(プライベートバンキング)資格 昭和31年生まれ。
長年にわたり金融機関でコンサルティング業務を担当後、大手証券会社の人材開発室で、FP・生命保険の社内講師を務める。
現在は、銀行・証券・保険会社をはじめとする上場企業での社員向け営業研修講師、また、大学や大手資格予備校、FP教育機関でのFP研修講師として活動している。シニア層や富裕層向けの研修・相談業務には定評があり全国にファンも多い。

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